そうよ、この成績は何かの間違い。それを、思い出してくれたんだわ!
二
「で? どうだったの、ミディ?」
げた箱のところで待っててくれたレッチェが、そう訊ねてきた。
わたしは右手にはめた、ブレスレットを掲げて見せる。
「なによ、それ?」
レッチェの言葉に、はぁぁ、と溜め息をつくわたし。
頬をふくらませ、唇をとがらせる。
「――魔法、使用禁止になっちゃった」
キョトンとしたレッチェは、次には声をあげて驚いた。
「え? えぇーーーっ!」
つまりは、こうよ。
ミディール・アルフレア嬢は魔法の授業に熱心だし、成績も優秀。
魔法の才能はあるでしょう。
それは認めるところだけれど、自分の手に余る魔法に手を出しすぎるところは、問題。
むやみやたらに魔法を使わないよう、自制する精神を養わなければいけません。
――ってね。
「そう、このブレスレッドは見張りなの。わたしが魔法を使ったら、それに反応して壊れちゃうんだって」
「それでこの春休みの間、一度も魔法を使うことなく新学期を迎えられたら――ブレスレッドが無事だったら、上級魔法のクラスに参加できるって言うのね?」
「そうなの! サム爺ったら、こんなもの付けなくったって、たったの二週間くらい我慢できますよーっだ」
わたしがプンプン怒りながら校門を出ると、レッチェは首を傾ぎながらついてくる。
「そう、かな?」
「なによ。できるって言ったらできるの!」
「ふーん」
「………………」
「………………」
うずうず。
うずうず。
「あーーーっ! もう! 魔法を使いたいぃぃーー!」
「あらあら」
「そんなの我慢できるわけないじゃない!」
ぷーっとむくれるわたしに、呆れたような、困ったような、複雑な表情を浮かべながらレッチェが微笑んできてくれた。
「がんばってね、ミディ。多分無理だと思うけど」
はぁぁ、正直な親友。もう、なんだか悔しくって涙がにじんできちゃったわ。
「――あら?」
わたしが指で涙をぬぐっていると、レッチェが声を上げた。
レッチェの視線を追っていくと、路地の十字路で男子が四人、たむろしている。
うちのクラスの男子たちで、トムジーンをリーダーとする、カムイ、テリオのいたずら三人組と、ジュネだ。
ジュネはあまり目立つような子じゃないけれど、紺色の髪は光に透ければ青色で、鼻先にかけた眼鏡が特徴と言えば特徴かな。
そんな彼らが何をしているかというと、じゃんけん。
じゃんけんで負けた人が、次の交差路までみんなのカバンを運ぶという遊び。
「飽きないわよね」
レッチェが言う。
そうなの。この光景はしばらく前から毎日のように続けられてる。
「あ、またジュネが負けた」
たとえ何度かあいこが続いたとしても、結局ジュネが負けるのよ。
「そういえば――」
みんなのカバンを抱えるジュネを眺めながら、わたしはふと気がついた。
この数ヶ月、ジュネはじゃんけんに勝ったことがない。
三
なんとなく興味がわいて、わたしはレッチェと別れたあとにジュネの家へと足を向けた。
冶金通りへ抜けるには、教会裏の竹林を突っ切るのが一番の近道だわ。
石積みの、背の高い教会の裏手に回ると、なだらかな地面に、だけど精一杯青空に向かって伸びている竹たち。密集する青竹の節、そのところどころから生えている笹の葉に触れないよう、この繊細華麗な乙女の柔肌を傷つけないよう、注意しながら先を行く。
しばらく行くと、前の方から声がした。
「――わかってるよ」
ジュネの声。なにか、緊張しているような口調。
思わず、わたしの身体も緊張して立ち止まってしまった。
「ほんとうに分かってるのかよ?」
ちょっと拗ねたような子どもっぽい声の早口が、ジュネに続いて聞こえてくる。
「いいか? お前は契約をしたんだ。お前は一生、じゃんけんに勝てない。だけどその代わりに、お前は強大な魔法力を手に入れた」
わたしは思わず息を呑む。
――強大な魔法力?
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