優しい幻
夢ならいい、と思った時があった。
良く分かんないうちにスピラに飛ばされて、リュックたちに助けられたときは。
もう一回シンに触れて、また夢みたいなのを見て、そして気が付いたらザナルカンドに戻ってる。
そんな都合のいい夢を見たいと思ってた。
でも、そんな現実逃避もすぐに終わって。
オレはガードとしてユウナ達と旅に出る。
親父と会って、スピラの死の螺旋を目前にして、愕然とした。
夢であって欲しいと思った。
もし夢だったらユウナ達に二度と会えないかもしれないけど。
「夢だった」って逃げられる。
「実際に起こった事じゃない。存在しないものなんだ」って。
その夢が、俺の方だったなんて、笑えない冗談みたいな事実。
バハムートの祈り子は、確かにそう言っていた。
否定はできなかった。
オレがくだらねえってわめき散らすよりも、あいつのほうがよっぽど説得力あった。
そうすれば、みんな筋が通った。
小さな頃からあいつを知っていた理由。
機械仕掛けのザナルカンドを俺が知っていた理由。
スピラの人間は死人にならないとザナルカンドに行けないのに、オレや親父はスピラに来れた理由も。
そりゃそうだよ。体のつくりが死人とオレらは一緒なんだ。
執着と信念が創る、偽りの生者を作り出す光の渦。
光り輝く、幻光虫の集合体。
唯一違うのは、異界送りじゃあ、オレの体は消えないって事くらい。
それでもいつかは、消えちゃうんだ。
たとえが気にくわないけど、シーモアみたいにさ。
でもそれはいつかじゃない。
すぐ近くまで来ている。自分自身で、それを早めている。
スピラの死の螺旋の中枢にいるエボン=ジュを倒す。
ザナルカンドを…俺を召喚している根元を絶つ。
それはスピラに永遠のナギ節を約束し、それと同時にザナルカンドごとオレを消滅させる。
…オレ、消えるんだ。
死ぬとかそんなんじゃなくって、消えるんだ。
ザナルカンドに帰れないとか、そんなことはとっくの昔にどうでもよくなっていた。
変えようのない現実に、ただ漠然と不安になった。
怖かったのかも知れない。
もし今、祈り子達が夢を見るのをやめたら。
その瞬間から、消えてしまう。
みんなに何も言えないままで。
みんなどう思うかな。
ルールーは怒りそう。ワッカは慌てそう。キマリは…ちょっと分かんないな。リュックは驚いてそうだな。
おっさんは「この時が来たか」って感じでしれっとしてそう。でも内心驚くんだぜ、きっと。
それから……
ユウナも、怒るだろうな。
自分が消えるのが怖いんじゃない。
みんなに何も残らないのが怖いんだ。
もしこれが消えないで死ぬ、だったらさ。
そりゃリアクションは消えるときと一緒かも知れない。
でも、思い出す時間がある。
オレの墓なら墓見ながらさ。
アイツはああだったこうだったって。そう言ってもらえる。
消えるときにはそれがないんだ。
いつ思い出すんだろう?オレ、消えた人っていないから分かんないけどさ。
みんな心の奥に閉まっちゃって、ずっと語れず終いじゃないのか?
それが、自分が消えることについて考えてて、一番怖かった。
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