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SPC投稿小説
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100年目のマリア



 ここまでのセッティングは、我ながら完璧だった。枕元のスタンドだけが柔らかな視界を提供している高級ホテルの一室。ベッドに身体を投げ出して、彼女はうっとりした瞳で俺を見つめている。
 ヒールだけ脱がないその見事な肢体に、俺は内心で舌なめずりした。久しぶりの上玉だ。かかった費用は食事代だけだが、まあ俺のこの容姿とレベルの高さを考えりゃ、まずまずってとこだろう。
「ねえ……」
 女が甘えた声で誘う。俺は今にも飛びかかりそうな自分を鉄の意志で抑えつけ、かわりに唇の端をくいっと持ち上げて、少しばかりニヒルな笑みを浮かべて見せた。女がほぉっとため息をつく。今夜限り、喰ってハイさよならの彼女だが、ぎりぎりまで甘い思いをさせてやるのが俺の流儀だ。
 さて、そろそろいきますか。
 俺は彼女のもとへとゆっくり近づいた。待ちきれずに俺の首にすがりついてきた女の裸身をそっと抱きしめて、ともにベッドへと倒れ込む。上品なコロンがふわりと香る。口づけた指先には丁寧にマニキュアが塗られていて、細い金鎖のブレスレットも心憎いアクセントだ。
 正直言って、彼女は決して「すっげー美人!」ってわけじゃないが、自己の手入れが隅々まで行き届いているところがすばらしい。あまり顔の美醜を気にしない俺としては、むしろこんな彼女こそタイプだ。
 さあ! めくるめーく、あーいーの世界へ〜♪
 ……と、

「きゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 突然、彼女が魂消るような悲鳴を上げた。耳元で発せられた甲高い叫び声に、俺の鼓膜は吹っ飛びそうになった。
「きゃぁあ! な、何よそれ……!? イヤぁああ!」
 狂ったようにわめきながら、彼女は俺をベッドから突き落とした。無様に転がった俺に、さらに枕をブン投げ、スタンドをひっつかんで振り回して威嚇する。
「ちょっと、ちょっと待て。わ、わかった、わかったから、ちょっと落ち着いて!」
 耳の奥がジンジン痛んでいる。そのせいか平衡感覚もおかしい。俺はふらつく足を踏ん張って、なんとか立ち上がった。
「大丈夫だから、コイツのことは気にしなくていいから! ね、とにかく落ち着こう?」
「だって……だって……!」
 彼女は恐怖に歪んだ顔で俺を……いや、俺の後ろを見ている。
 振り向かなくてもわかる。どうせそこには、血まみれだか腐れゾンビだかわからんが、ホラーテイストばっちりなサチコが、ヌボーっと立っているに違いない。
 まただよ。これで何十回目だ?

 彼女は結局、ぎゃーぎゃー大騒ぎしながら服とハンドバックを抱きしめ、一目散に逃げ出してしまった。うう、あのプルンプルン揺れてた豊満なおっぱいも、もうちょっとで俺の物になるところだったのに。
「サチコ、頼むからさあ……」
 俺は頭をかかえてうずくまった。頼むから、いいかげん俺を解放してくれ。
 こんな状態が、もう半年も続いているのだ。

  ☆

「そりゃあお気の毒なことだね」
 言葉とは裏腹に、ミッチーはにやにやと眼を細めている。ライバルの落ち目を心の底から楽しんでいる様子だ。
 またもや獲物に逃げられた俺は、しばらく夜の町を徘徊したのち、この地下のクラブに戻ってきた。客は俺とミッチーだけ。いつもなら他にも仲間が来ているんだが、今日はどいつも外出しているようだ。そろそろ決算だし、みんなノルマ達成に躍起になっているんだろう。
 現在ぶっちぎりでトップを維持している余裕のミッチーの隣で、俺はカウンターに突っ伏してオイオイ泣いていた。カッコ悪いとは思うが、いまさら強がる気力もないッス。
「ミッチー、一生のお願いだ、なんとかしてくれ。死活問題なんだぞ」
「そうは言ってもな……」
 気取った仕草でグラスの氷を揺らしながら、彼は俺の背後に目をやった。眉間にしわを寄せてしばらく睨んでいたが、ふうっと息をついて前に向き直る。
「悪いが、俺には見えないんだよ。その、幽霊ってのか? 本当にいるのかよ」
「いるんだよ!」
 憑依とか言うやつだ。俺はサチコにとりつかれている。
 今時、本やテレビの中だけの話だと思っていたのに。こんな根性のある女がまだいるなんて驚きだぜ。