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SPC投稿小説
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 サチコを殺したのは俺だ。
 本当は彼女をひっかけるつもりはなかった。あの時のターゲットはサチコの女友達の方で、俺の眼中にまったく入っていなかった女だ。
 ところが、もう少しというところでその女友達の昔の恋人(と本人は名乗っていた)が現れて、面倒なトラブルが起きかけた。俺だってたまにはヘマもする。ツツモタセってやつだ。騙すつもりが騙されていたわけだ。
 そこで俺を助けてくれたのがサチコだった。
 ずんぐりした容姿で、それをコンプレックスに思っているからだろう、化粧も服装もパッとしない、地味で目立たない娘。
 ――ただ、優しかった。今までに会った、どんな女よりも。
「彼女だって、本当は素直で、すごくいい子なのよ。ちょっとわがままなところもあるけれど、それは育った環境のせいなの。だから許してあげてね」
 どこか淋しそうな笑顔で、サチコは言った。引き立て役だとありありとわかるのに、面白半分にサチコを連れ回している、友人とは名ばかりのあの女狐のことを……彼女は一言も悪く言わなかった。
 さすがの俺も、ホロッときたんだね。いつもなら一度きりでさっさと終わらせてしまう俺だったが、彼女には、ひどい別れを突きつけるようなマネは、どうしてもできなかった。
 それが勘違いされたわけだ。サチコは俺にとことん惚れ込み、ストーカーと化してしまった。行く先々についてきては、ことごとく俺の恋路の邪魔をするようになった。どんなに邪険に追い払っても一向に引く気配もなく、――そして、我慢できなくなったある日。

 神に誓って、俺はサチコを殺す気なんかなかった。あれは不可抗力だ。俺、ちゃんと警告したんだぜ。これ以上まとわりつくなら殺すぞ!って。脅したりなだめたりして、なんとか諦めさせようと、俺はせいいっぱい努力したんだ。
 なのに死んでからも、この女は……!

「それが良くなかったんじゃないのか?」
 ミッチーは冷ややかに言い捨てて、残りのバーボンを飲み干した。女にみまがうような美貌から、いつの間にかからかうような笑みが消えていた。
「余計な情けをかけるからそういう目に遭うのさ。ま、せいぜい上手にカミさんの目を盗んで浮気するんだな。頑張れよ」
 イスにかけてあったジャケットをはおり、彼はさっさと立ち上がった。
「おい待てよ!」
 止める間もあらばこそ、ミッチーは早足で店を出ていってしまった。確かに俺たちは、仲間内にもけっこう冷たい部分はあるんだが……うう、親友だと思ってたのに、あの野郎。
 呆然としている俺に、それまで黙っていたマスターがボソっと言った。
「実は、あんただけじゃないんだよ」
「え?」
 ミッチーのグラスにバーボンを足し、ちょっと口に含んで唇を湿らせると、何か不吉な話をするような口調で、彼は語を継いだ。
「いざってところで、女が怖がって逃げちまうって話さ。こうなっちゃ俺たちは、商売あがったりだからな」
 実はマスターもここ数年で、他の何人かの仲間から、同じような相談を受けていたという。そういや、ここんとこ会ってねえ顔ぶれが多くなったような。あんまり他人に興味がねえから、今まで気にもしなかったが。
「淋しい女が増えてるのかね。こんな、ヒモみたいな生き方しかできない俺たちでも、ちょっと優しくされりゃあ心の底から好きになっちまうのか」
 年の割に若く見えるマスターは、そう自嘲気味に呟いた。マスターも昔はかなりの腕利きだったって話だけど。
 ヒモ……か。やっぱ、天罰ってやつなのかな。

 ☆

 そしてさらに二ヶ月が過ぎた。
 俺はもう、我慢の限界だった。いや、限界なんかとっくに越えていた。
 公園のベンチの裏に座り込んで、俺はぼんやりと星空を眺めていた。そばにサチコが立っている。最後に会った日に着ていた真っ白なワンピース姿で、ただ静かに俺を見下ろしている。
 ふと、背後に人の気配がした。女のくすくすという忍び笑いに、男が甘ったるい声で何事か囁き返している。俺が寄りかかっているベンチに、人がいるとは知らずにアベックが座ったらしい。
 ふと気がついたら、俺は立ち上がって後ろから女の首を無造作につかんでいた。腹の減り過ぎで力の調節がきかなくなっていたらしく、ボキリと鈍い音がして、女の首が折れてしまった。構わずに片手で持ち上げて、ベンチの後ろに引きずり出す。その子を引き寄せて、俺は唇を重ねた。
 とたんにぶん殴られて、俺は5メートルくらい先の地面に投げだされた。
「お前、なにしやがる! こいつは俺の獲物だぞ!」
 見ると、相手の男はミッチーだった。街灯の下に立った彼は、真っ白な顔にべったりと黒いクマをはりけて、血走った目で俺を睨んでいる。げっそりとこけたほおに、傷んで白い物が混じり始めている髪の毛。まるで今の俺と同じだ。よくもまあ、あんなんで女の子を口説けたもんだ。