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「解明できたら物理学博士になれるよ」
 錬司は机の上のベレッタに目を向けた。
「さっき撃ったのは……?」
「時間が停滞している物は何をやっても傷つけることはできない。わかるよね?」
「ええ」
 以前読んだ『モモ』という童話にあった。時の流れが失われてしまった扉は開けることも閉めることもできないのだ。
「それと同様に、時間が逆行している物も壊すことはできない。結果はすでに観測されてしまっているわけだから」
 なるほど。時間が逆行しているということは錬司たちの過去はこの石にとっては未来になるわけで、この石が壊れるためには、錬司たちが見た時点ですでに壊れていなければならない。
「仮にパラレルワールド的にこの石が壊れている過去が――私たちにとっての過去が――発生しているとしてもそれを観測することはできない」
「なんだか、わかったような、わからないような……」
「解明できたら物理学博士になれるよ」
 錬司と子桜はさっきと同じ言葉を交わして、少しだけ笑った。

   *

 査定を始めた。
 脳波、脈拍が基準曲線に一致。しかし……。
「……ふぅ」
 しばらくして、子桜がため息を吐いた。脳波、脈拍とも基準曲線を離れ、自由に遊び始める。
「なにも起きませんね」
「やっぱり無理か。もしかしたら、未来が少しは見えるかもしれないと思ったんだけど」
 錬司は子桜の言葉でようやく気づいた。時間が逆行しているということは、そういうことだ。どうにも非常識なことには普段より頭の回転が鈍ってしまう。
「確定していないから現象として現れないのか、“道具”ではないから確立されたシステムが存在しないのか……。――でも、見えなくて良かったわ」
「どうしてですか?」
 錬司が訊くと、子桜はクスリと笑って答えた。
「未来なんて、わからない方が楽しいじゃない」
 錬司はPCをシャットダウンする。
「……私たちに、ろくな未来があるわけもないしね」
 子桜の呟きはハードディスクのアクセス音に隠れて、錬司の耳には届かなかった。



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