『The Monochrome&Rubyeyes』
0,閉鎖空間
少女は泣きながら目を覚ました。白いベッドで。いつものように、一人だった。
(・・・なぜ?)
少女は自分の頬を伝う涙を、指先で確認するように触れると、自問した。
涙の理由(わけ)が分からない。
幾度目の涙、幾度目の自問だろう? 朝、目を覚ますと、どうしようもない悲しみのなかに、理由も分からずに涙を流している。そんな自分が幼い頃からずっと不思議だった。
私はなぜ、涙を流すのだろう?
袖で涙を拭い、部屋の壁に埋め込まれている洗面台を引っぱり出して顔を洗う。
涙を洗い流し、目の前に立つ、鏡の中の自分にもう一度問いかける。
「・・・なぜ?」
細い声が部屋の中に響き渡り、・・・ただ、それだけだった。
声のエコーが消えてから、いつものように部屋を見渡す。
さして広いわけでもなく、といって不自由するほど狭くもない部屋。生活に必要な物は全てそろっているが、それ以外の物はほとんどない部屋。
白い壁に囲まれた、白い発光パネルに照らされた、白い部屋。
白い扉の向こうには白い廊下が延びている。どこまでも白い空間。
その向こうは?
その向こうに何があるのか、少女は知らない。あの扉の向こうには、何があるのだろう。
また、白い廊下だろうか? ここと同じ白い部屋だろうか? それともライトグリーンのグリッドで区切られた、ただ、白く広い空間?
それとも、・・・それとも・・・。
いや、本当は少女は“知って”はいた。扉のむこうに続く、長く入り組んだ廊下も、そのむこうの、この建物の外の世界も。
だが、それを“知って”いると言えるのだろうか? 見たこともない世界を。
本と写真に与えられた知識で、“知っている”と言うのは、どこか滑稽に思えてならなかった。
だから、あんな夢想に耽ってみる。
だけど・・・ほんとうは・・・。
少女はいつか夢に見た、高く青い天井と、緑色の草が一面に揺れる床、吹き抜ける風を想った。
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