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SPC投稿小説
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眠り姫の現実



 目覚めるんだ。
 さあ。
 早く起きろっての。

 頭の奥に直接響いてきた声に、あたしは我が耳を疑った。
 誰? あたしを呼ぶのは。
 しかも、目覚めろ、なんて。あたしは今、しっかり起きてるわよ。
 お父様やお母様と一緒にお花摘みをしているじゃない。
 眠ってなんかいないわ。
 ふざけたことを言わないで。

 あたしはその声を無視して両親の元に駆け寄った。
 優しくて綺麗なママと、広くて大きな背中を持つパパ。
 笑ってあたしを抱き締めてくれる。
 そう、あたしは起きている。
 パパとママと、三人で遊んでいるの。
 あたしの目の前には、真っ白なシロツメクサが敷き詰められた野原が広がっている。
 肌をくすぐっていく穏やかな春風はふんわりと花の香りを運んできてくれる。
 空は青く澄み渡って、雲ひとつ無い。
 綺麗で幸せな毎日を、あたしは享受しているの。

 これが夢だなんていうの?

 問いかけたあたしに答えるかのように、また声が響く。
 どこか呆れたような響きを孕んだ、若い男の声。

 まぁ別に起きなくても、俺的にはあんまり問題はないんだがね。
 だがしかし、こうして見つけてしまった以上、放置しておくのも気が引ける。
 仕方ないから、まあ物語古来の方法でも試してみるか……

 え、何っ……。
 唐突に、息が苦しくなった。
 やだ、頭が、体が、熱いっ……!
 助けて、パパ、ママっ!
 体が、壊れてしまいそうっ!!
 二人に向かって伸ばした手がどんどん霞んでいくのはどうして?
 パパの顔がぐにゃぐにゃになっていく。ママの顔がどろどろに溶けていくっ!!
 世界が、綺麗な野原がどんどん闇に包まれていく……っ!
 嫌っ!嫌、嫌ぁっ!!

「んくっ……ん〜〜んん〜〜〜!?」
 瞳を開けると、目の前に顔があった。
 鼻と鼻が触れ合っていて、目の前に見える相手の瞳はしっかりと閉じられていて、あたしはなぜか口を開く事ができない。
 事態を理解するのに、三秒かかった。
 そう、この状況は。
 もしかしなくても。
 つまりはアレだ。
 ……キスというやつだ。
 ってなんであたしはいきなり知らない男にキスなんてされてんのよっ!!!
「んん〜〜〜んぅ〜〜〜や、やめんかっ〜〜〜!!」
「おお、うわっ!!」
 ばごっ。
 あたしはとりあえず、相手の顔に向かって鉄拳をかましてみた。
 吃驚して飛び退った男に、あたしはへへんと不敵に笑った。
「いきなりキスするとは何事よっ!!」
 全く、頭に来ちゃう。乙女の唇をあーも簡単に奪うなんて。
 しかも。
「しかも、相当ディープに舌なんて入れてるんじゃないわよ、馬鹿っ!!」
 あたしはとりあえず唇を手の甲で拭った。
 一体何がどうなってるのよっ。あたしはわけも分からず混乱してしまった。
 ちょっと思い出してみる。
 ああ、そうだ、あたしはずっと眠っていたんだ。
 長い、長い夢を見ていたわ。それはとても幸せな夢だった。
 パパとママと、三人でずっと遊んでいる、大したことのない夢だったんだけど、でもとても幸せだった。ずっとこのままでいたいと思った。
 そして――
 ここまで思い出して、あたしは寒気を感じ、自分を抱き締めた。
 唐突に、夢の終わりのシーンも鮮明に思い出してしまったからだ。
 ひどくグロテスクな終焉だった――
 青ざめたあたしの表情を、男は全く気にもせず。
「眠り姫なんだから、もう少しロマンチックに目覚めたらどーだよ」
 飛び退った男はあたしに殴られた頬を押さえながら言ったわ。その顔は怒っている、というより呆れているように見える。
 よくよく見ると結構いい男……じゃなくて。
 あたしはその顔を睨みつける。