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SPC投稿小説
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 闇夜にぽっかりと浮いた灰色のホーム。両側に線路が走っている。ホーム自体の構成は至ってシンプルで、明かりが灯されている30数メートル四方は見える。だがホーム自体はまだ続いているらしく、両端は闇に飲み込まれて見えなくなっていた。
 少し高い屋根。見える範囲では両脇に十本の柱があり、天井からつり下げられた光源が一つ。蛍光灯ではなく余程強い白熱灯なのか、肌に刺さる冷気も少しは暖かい気がする。
「駅員さんに聞いてくるわ」
 ぶっきらぼうに言い放ち、近い方――向かって右手――の闇へと身を翻す。
「あー、ムリムリ」
 何でよ、と振り返って聞き返そうとした瞬間、肩を闇に押されてバランスを崩す。
「きゃ」
 短い悲鳴を上げ、摩擦抵抗がゼロになった様に宙を舞う足。顔は手で覆ったが、そのまま肘をホームへ打ち付けた。
「無事か?」
「……お陰様で」
 恨めしい目を若者に向けながら、膝をついて体を起こす。立ち上がって肘に着いた砂を払い、闇へと立ち向かった。
 さっきは《何か》の力に押された気がした――おそるおそる手を差し入れてみると、かなり強い力で弾かれた。手の平にじんじんと痛みが走る。
 半ばムキになって反対側の闇へと駆け、同じように手を差し入れてみるが、やはり弾かれた。
 少ししょんぼりとして元の位置に戻る。勝ち誇った笑みを浮かべた青年が迎えてくれた。
「悔しいけどギブアップよ。ここ、まるで檻みたい。出られないわ」
「そりゃそうだぁなあ」
 新しい煙草をくわえ、火を着けずに息を吐き出す。
「どういう事?」
「さっき話したやろ? 事故ぇ死んだん俺や」
 ――どういう事?
 聞き返すよりも先に続きの言葉が紡がれる。
「自分で見ててなあ――首が飛んで、赤になって黒になって」
 ポケットから取り出したライターで、煙草に火を付ける。
 息を吸って、吐く。
 真っ白な煙が光に紛れて消えていった。
「え、なに、どういうこと? だって貴方此処にいるじゃない」
「ああ、おるな」
「じゃあ生きてるじゃない」
「はぁ」
 ため息と共に煙を吐き出す。
「何も分かっとらへんのな――この場所、所謂《三途の川》や」
 とりあえず、青年が関西弁モドキに変わった事は分かった――だがここが三途の川だと言う事はさすがに信じがたい。大体花畑ではないし川なんて無い。
「そん顔は信じとらへんな? まあ俺も突然町中に出たときゃビビった」
「町中?」
「ああ。だってホレ、今デパートの階段に座ってとるやないか? 姉サンはそこの銅像んトコに」
 デパート。銅像。
 頭の中で《?》が渦巻く。少なくともここが駅のホーム以外だとは信じがたい。というかデパートには絶対に見えないし、近くに立っているこの柱も銅像だとは思えない。
 触れてみてもそれは同じで、冷たい鉄の感触がする鋼鉄だ。
「私には駅のホームにしか見えないわ――私も貴方も柱の近くに居る」
「――こいつぁ驚ーた」
 青年が立ち上がって、自分の下から外に向かって指を指す。
「ここが階段でぇな、そこぁ入り口。んで姉サン立ってんトコに――んだこりゃ? 芸術はワカンネーがヘンなのがおっ立っとる」
 その変なの、が銅像なのだろうが。いくら眼を凝らして柱を見ても柱にしか見えない。よくよく見て気がついた事は、紫に塗られた塗装に亀裂が走ってると言う事か。
「姉サンはどー見えとん?」
「私と貴方の横に紫色の柱があって、柱の奥は線路になってる。立ってる所はコンクリートのホームで、幅は大体6……メートルぐらいかな? 両側に線路が走ってて、頭の上には一つだけ大きなライトが点いてる――ホームの両端は暗くて見えない。行ってみたらさっき貴方も見た通り、《何か》に弾かれちゃった」
「雪ふっとる?」
「ええ、降ってるわ――線路を挟んだ先は両方とも見えないけど、線路の上には結構積もってる」
「そぉかぁ……」
 いつの間にか小指の半分ぐらいになった煙草を空き缶にねじ込みながら立ち上がる。肺に貯めていた煙を吐き出すと、ゆっくりとこちらに流れてきた。煙は苦手なので、青年の前に回り込んでそれをかわす。
 新しい煙草をくわえ、ぼーっとコンクリートの床(違う風に見えているのかもしれないが)を見つめている。
「しかし、なしてこんいなコトになってもうたんかなぁ」
 その声は少し小さい。心なしかトーンが落ちた様な――いや、雰囲気が暗くなっている。
「はっ、俺のコトはどげでもええやぁな。姉サンまで暗い顔してどないすんねん――して、姉サンはなしてここにいん?」
 最初の笑顔に戻る。雰囲気が伝染ってしまったのか、私まで暗い顔をしてたらしい。
「それが分からないの。気がついたらここにいて」