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SPC投稿小説
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 街全体に蜘蛛の巣のように張り巡らされている、動く歩道。時速約5キロのこれは、この時代では電気自転車と並んでメジャーな移動手段である。
 徒歩よりやや早く自転車よりは遅いこの速度は、軽く風が頬に当たる程度で気持ちいい。
 急ぎの用事がある時などはこの遅さがまだるっこいが、ぶらぶらする時はこの歩道に任せるままにするのが一番だ。
 トモヒロもまた、軽い散歩のつもりで歩道に乗って街中を進んでいた。
 目的を持たず、ゆっくりと変わってゆく景色をぼんやりと目に入れる。一軒一軒異なった装飾を持つ建物は、見ているだけで結構面白い。
「……お?」
 不意にトモヒロは、ビルの横のファミリー・レストランの中に友人の顔を見つけ、慌てて隣の歩道に飛び乗った。地面を敷き詰めるようにたくさんの道が走っているので、ちょっと移るだけで簡単に方向転換が出来る。
 友人は二人。男女一組のカップルで、何やら、楽しそうに話をしている。
「おーい、ヒカルーっ! カナーっ!」
 彼らに大声で呼びかけて手を振ると、最初に少年のほう、ヒカルが気づいたらしく手を振り返してくれた。
 次いで、彼の隣にいた少女も、にっこりと笑って手招きをしてくれる。
 カナは、仲間内でのヒカルの公認彼女だ。大声で叫んでおいて何だが、邪魔しちゃ悪いかな、という気分に少しなる。
まあ、誘ってくれているのは向こうだし、ちょうど小腹が空いたところだ。ファミリー・レストランの豊富なメニューの魅力はどうにも出来ない。
 えーっと、カード、カードと……。
 この街の住人全員が携帯を義務づけられている、身分証明にもなるクレジットカード。
 ポケットの中にそれがあるのを確認したトモヒロは、ファミリー・レストランの前で歩道から動かない地面にとっと降りた。

「いらっしゃいませー!」
 自動ドアから入るとすぐに、店員さんの甲高い声が耳に入ってくる。今の技術ならば人間を赤外線で感知して機械で全ての作業が可能なため、無人の料理店も可能らしいが、そうはなっていない。専門家の言葉を借りれば、こういう細かなところで人と接することが機械社会には大切らしい。
 トモヒロはまだそういう人間の《深層心理》なるものは理解出来なかったが、もし機械に席を案内されたりお冷やを渡されたりしたら、味気ないと思うのは間違いない。
 ヒカルとカナの座っている所に迷わず進み、ヒカルの隣にどんと座った。
 二人も来たばかりらしく、テーブルの前には何もない。
「よっ、デートの邪魔して悪かったな」
 図々しく、トモヒロはいきなり会話に割り込んだ。
「いいんだよ、呼んだのはこっちだし。大勢のほうが楽しいのは当たり前だからね」
「そうそう。トモヒロ君もいっそのこと、彼女でも呼んだら?」
「うう……わざと言ってるだろ。俺には彼女なんかいねえよ……」
 二人の言葉に、トモヒロはいじけた真似をして見せた。14歳ともなると彼氏、彼女といったものがあちらこちらで出来てくるものだが、残念ながらトモヒロにはまだ彼女と呼べるような人はいなかった。
「それより、何の話してたんだ?」
 やはりカップルの前で自分が独り身だと自覚すると寂しくなる。トモヒロは話題を変えようと、お冷やを一口飲んで言った。
「ん? ああ、ちょっとこの前、昔のデータベースを調べた時に面白いものを見つけたから、それをカナに教えてやっていたのさ」
「相変わらず好きだな、そういうの」
 ヒカルはトモヒロの知る限り、この界隈では一番頭がいい。外見も子供らしくない背広に黒ぶちの眼鏡姿と、いかにも優等生といった感じである。
 彼がどれくらい頭がいいかというと、世界全ての生徒を対象にしているティーチング・マシーンのネットランキングでいつも上位に顔を出しているほどだ。
 人一倍ある好奇心の強さとこだわりがそうさせているようで、それを裏付けるように、彼はときおり専門家しか見ないようなデータベースを見たりしているらしい。
「それで、今度は何を見つけたんだ?」
「学校だよ」
「学校?」
 聞いたことのない言葉に、トモヒロはおうむ返しに聞いた。
「そう。学ぶに、木偏に交わるで校と読んで学校。僕たちのような子供が五百年くらい前まで勉強していたところをそう呼ぶんだって。さしずめ、ティーチング・マシーンならぬティーチング・プレイスってところじゃないかな」
「ふうん……そこでどんなふうに勉強してたんだ?」
 ついさっきまでつまらない勉強をしていたこともあり、少なからず興味をそそられる話である。更に詳しく聞きたくなり、トモヒロはヒカルを促した。
「教室っていう広い部屋に30人から40人の子供が毎日集まって、人間の先生が一人で授業をしてたみたいだよ」